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コモディティ化を回避せよ:~日本人DJ×洋楽アーカイブ。「パティーナ大阪」ホテルと空間コンテンツ。ルイヴィトンとファレル。真正性への気づき~

  • 執筆者の写真: Hiroshi Abe
    Hiroshi Abe
  • 6月12日
  • 読了時間: 21分

更新日:6月13日

コモディティ化を回避せよ:真正性への気づき~日本人DJ×洋楽アーカイブと空間コンテンツ~



◆1. 日本人DJ×洋楽アーカイブという文化現象


前回のブログでは、日本特有の「節操のない(優れた)創造力」による感性について触れた。この感性は、食文化の領域にとどまらない。日本人DJ×洋楽アーカイブという世界においても、同様の文化融合?が現れる。


洋楽をはじめとするアーカイブと最先端の楽曲群を知る優れた日本人DJとの組み合わせも、個人的には、前回論じた食文化における和洋融合と全く同じ文脈で捉えている。現在では日本人DJと洋楽アーカイブの組み合わせと言っても、あまりにも普通すぎて全く違和感がないわけだが、これを「節操のない(優れた)創造力」という視点から見てみよう。


このDJ、空間、音楽、酒が有機的に絡み合うという文脈にピッタリな場所を先日訪れた。



◆2. パティーナ大阪「SONATA BAR & LOUNGE」~空間コンテンツの新境地


先日訪れたカペラグループの「パティーナ大阪」ホテルでの体験が印象深かった。硬すぎず柔らかすぎない建物と空間のセンス、そして、その質感と全体のバランスがとてもいい感じだ。そして、ホテル内の空間コンテンツである「SONATA BAR & LOUNGE」の存在感は良かった。


ホテルなので、エントランスやロビー、客室、レストランなどを本来紹介すべきなんだろうが、このブログでは省略させていただく。「パティーナ大阪」は、"自分自身や周りの世界とのより深いつながりを求めている新世代の旅行者に特化したライフスタイルホテルブランド"というコンセプトを掲げている。




⚫︎パティーナ大阪の戦略的位置づけ


「パティーナ大阪」は、NTT都市開発株式会社が主導する大阪都市計画特定街区「法円坂北特定街区」内の大阪・法円坂ホテル計画の一環として誕生した。この「パティーナ」ブランドは、2021年にモルディブで初開業し、日本では初進出、世界では2軒目の展開となる。


「パティーナ大阪」は、大阪の重要な2つの歴史遺産「大阪城」「難波宮跡」に近接し、大阪の歴史発祥の地である上町台地に位置している。NTT都市開発株式会社は、大阪城や難波宮の歴史が息づく立地に、ロケーションごとに独自の感性とデザインを施す新世代の洗練されたライフスタイルホテルである「パティーナ」ブランドを誘致することで、大阪城周辺エリアの彩りや賑わいの創出に寄与するとしている。


「パティーナ」は、クリエイティブで、デザインに精通し、何事にも情熱を傾けて取り組む社会的意識の高い旅行者をターゲットとしており、”“「パティーナ大阪」は、仕事や遊びなど、すべての人間の活動をシームレスに捉え、洗練されていながらも遊び心のある空間で、一人ひとりのニーズに合ったきめの細かいホスピタリティを提供する「パティーナ」の特色と、歴史・文化が感じられるエリアの魅力が融合することで、ビジネス・レジャーを問わず、国内外からのゲスト・地域の方々などの多様なニーズに応える唯一無二のホテルをめざす”“ とのことだ。


PATINA

⚫︎高級ホテル内の空間コンテンツとして


”“洗練されていながらも遊び心のある”“という、ホテル内の空間コンテンツの一つが「SONATA BAR & LOUNGE」だ。


このバーラウンジでは、「好みに合わせた多彩なプログラム」が用意されている。Patina Selectorsというプログラムでは、ヴィンテージオーディオ×アナログレコードによる音楽体験が味わえる。"懐かしの名曲から新たな発見まで、パティーナのチームメンバーやゲストセレクターがセレクトした一枚一枚が、心に響くひとときを演出します"という説明通り、心地よいサウンドが響き、時空を超越する歴史パノラマビューに心を奪われる。


肩肘を張らないが決してゆるくもない、そして、酒類その他ドリンクのクオリティには一切手を抜かない上質感、それらが一体となってコンテンツを形成している唯一無二の空間である。「パティーナ大阪」がこうした空間コンテンツを有していることは非常にクリエイティブだ。


DJによるセレクトされた音楽を、酒類の他に、バー・ラウンジ空間の核とする方法と運営スタイル自体は特段新しいものではない。しかし、新進気鋭の高級ホテルであることと、ヴィンテージオーディオ×アナログレコードという体験、ローカルDJのブッキング、ゲスト達が参加できるセレクションプログラムを提供するアプローチ、それらの組み合わせには、コモディティ化を回避すべく図られた「新×旧・高級×ローカル、歴史×トレンド」という、真正性へ回帰するとでも言うような文化融合を具現化している。そこに独自性があると思う。


⚫︎パティーナ・サウンドと旧知のDJたち

SONATA BAR & LOUNGE_パティーナ・サウンド
SONATA BAR & LOUNGE_パティーナ・サウンド https://www.tablecheck.com/ja/shops/patinahotels-osaka-sonata-lounge-bar/reserve

そのパティーナのチームがセレクトしている「パティーナ・サウンド」というプログラムは、「大胆なトラックとレジデントDJ、そして世界各地からのゲストとともに週末を締めくくりましょう」と紹介されているが、ここでブッキングされているDJたちが、自身の昔話を掘り起こして大変恐縮だが、私がかつて、音楽プロダクション会社時代に運営していた音楽エンターテインメント系(カフェ、ライブハウス・ミュージックバー・ナイトクラブ)施設で共にチームを組んでいたDJの面々だ。


そんなDJの面々、DJ Ageishi、DJ Tan Ikeda、DJ Yoku...彼らは、毎週金曜日の「パティーナ・サウンド」というプログラムでプレイしている。ローカルDJや時には海外からのゲストが登場し、ジャンルにとらわれないセレクションと予期せぬリズムで夜を彩る。彼らの選曲にはまさに和・洋と空間とゲストを融合する美学とセンスが息づいている。


ちなみに、日本初のラグジュアリー・ライフスタイルホテル「W Hotel大阪」の活気に満ちた「Living Room」ラウンジでも、DJ Nao Nomuraをはじめ、当時の仲間たちが多数プレイしている。優れたDJというのは、どこでプレイしても必ず何かしらの「化学反応」を起こすものだ。なぜ化学反応を起こすのか。


PS.

全くの余談だが、DJ Yokuや、DJ Nao Nomura、その他大阪のこういった業界の面々とは、毎年一年に一回、関西で美味い鮨店を貸し切って色々と全部食べ尽くす・飲み尽くす男会を行なっている。なので、こちらの関西の本気でうまい鮨店情報や街情報等についても、また機会があれば紹介したい。



Fly Like An Eagle - Steve Miller Band



⚫︎DJという「文化の翻訳者」


日本人DJは、西洋音楽の歴史的文脈を深く理解しながら(楽曲の歌詞内容の理解については個人差があるものの)、独自の感性でそれをエディットし、再構築している。ディスコ、ハウス、ソウル、ファンク、レイドバック、テクノ、ロック、ヒップホップ、JPOP…あらゆるジャンルを咀嚼し、最適化された音楽体験を創造している。そして場所と空間、時間を客層に合わせて精密にアレンジするのだ。優れたDJは単なる音楽の再生者ではない。


そして、優れたDJは、セレクトする音楽ジャンルのアーカイブ全体像と、その楽曲がどこのジャンルにどのように分類されているかという構造的理解を有している。さらに、その楽曲のアーティストの思想的背景や歴史、そのクリエイションにまつわる哲学やメッセージ性も把握した上で、最新音楽との融合、そして空間・場所・人・酒・時間との有機的統合を実現する能力を持つ。


そして、彼らをブッキングする側から言うと、DJとしてのサウンドに関するエディットの技量やセンスだけでなく、人間味と醸し出すオーラ、その辺りも重要なところだ。


ここで高尚な、古今東西のDJ論を展開したいわけでは全くないが、これらの優れた実力を持つDJは、「文化の翻訳者」と言う仕事をしていると言ってもいい。


そして、ホテル運営側から見た場合は、地理的・歴史的・哲学的な文化事象を持つ場所と時間とサービスをその背景として、これら文化の翻訳者と洋楽アーカイブとを組み合わせ、「新世代の社会的意識の高い旅行者」へ向けた、美味しさや心地よさを生むことを意図した、パティーナ大阪のエディット力・アレンジ力とも直結する。つまり、パティーナ大阪自身も、文化の翻訳者ということだ。


PS.

過去、私が運営していた音楽エンターテインメント系 ライブハウス・ミュージックバー・ナイトクラブ施(GrandCafe)でブッキング、マネージしていた、DJやその他アーティストのアーカイブを残してくれているWEBがあるので、参考までリンクを貼っておく。お暇な時にどうぞ。



Grand Cafe Osaka:




◆3. ナイトラウンジ(ミュージックバー)。ナイトエコノミー


⚫︎パティーナ大阪体験から見るナイトエコノミー戦略


「パティーナ・サウンド」とその空間で過ごす時間を体験して痛感したのは、高級ホテル内でのローカルDJと優れた音響システム、上質なフードと酒の組み合わせを導入したナイトラウンジ(ミュージックバー)というフォーマットの新たな可能性だった。


高級ホテル内のナイトラウンジ(ミュージックバー)というカテゴリーは、音楽に価値を見出さない層には響かないが、その価値が響く層には非常に魅力的である。音楽は旅にも最適だ。世界中の文化と歴史、様々な哲学がその音と空間とに凝縮されることで、結果的に現代のカルチャーを浮き彫りにしながら体験価値を高め、ホテル全体の活き活きとした躍動感を生み出す。


従来の、街場にあるミュージックバーは、どちらかといえば「音楽好きのためのマニアックな場所」という傾向が強い。しかし、パティーナ大阪のようなアプローチは、音楽を軸にしながらも、より幅広い層にアプローチできる可能性を示している。


重要なのは、音楽の「教育」ではなく「体験」に重きを置くことだ。夕暮れ時のカクテルと大阪のスカイラインとともに、心ほぐれる時間を過ごす。音楽はBGMではなく、空間体験の中核を担っている。


DJの選曲一つで、同じカクテルの味が変わり、同じ景色の印象が変わる。「文化の翻訳者」によってサウンドから深みのある哲学も得られる。客に音楽の知識を押し付けるのではなく、音楽によって生まれる空間体験の質を高める。そこに食事や酒が加わることで、総合的な体験価値が創出される。そして、ホテル側が狙っている客層に集中的に、アプローチできる可能性も高くなる。



◆4. 音楽と酒は連動する。五感統合論


⚫︎音が味覚に与える科学的影響


音楽は「サービス」として提供されているが、実は単なるサービスの手段で止まらない。心地よいサウンドと酒の相性は抜群であり、そのことによって酒も、数々のサイドディッシュも何倍も美味しくなる。そこまでは普通に体感しやすいことだと思うが、音楽が食事や飲み物の味を変える、と言う視点がある。音楽が食事や飲み物の味を変えるという話は、都市伝説ではない。音の周波数や振動と味覚の関係には、一定の科学的事実が存在している。


ざっくり言えば、低音は甘味を、高音は酸味を強調する傾向がある。音質が悪いと食事も酒も不味くなる。逆に言えば、音質に投資することは、食事と酒の体験価値を直接的に高めることを意味する。


⚫︎伝統と科学が証明する音の力


チリのモンテス・ワインでは、2004年から365日24時間、グレゴリオ聖歌をワインの熟成庫に流し続けている。音楽の振動がワインの樽での熟成を助け、より良い品質を達成することが確認されている。


一方、日本には古来より音と発酵を結びつける智恵があった。日本酒の杜氏たちが地域にまつわる古歌を歌いながら酒をかき混ぜる手法は、実は科学的に極めて理に適っている。麹菌や酵母などの微生物は音の振動に敏感に反応し、杜氏の歌声が発酵槽内の微生物活動を活性化させるのだ。


⚫︎空間音響の重要性


現代はイヤホンが主流の世の中だが、空間音響は個人の体験とは全く異なる設計思想になっている。簡単に言えば、空間全体が楽器になるように。壁の材質、天井の高さ、家具の配置...すべてが音響特性に影響を与える。そして、その空間で提供される食事や酒の味わいも、音響設計によって決定づけられるのだ。


ちょっと話はズレるが、最近の音楽、特にヒットチューン系ポップミュージックは特にそうだが、イヤホン、ヘッドフォンで聴きやすくなるように、音質、音質バランス、周波数等々、全て音響的な設計とデジタル処理が最新機器によって施されている。



That Didn't Hurt Too Bad - Robert Byrne



◆5. 従来の日本の高級ホテルとの差異化そして戦略


⚫︎静謐で上品であること


これまでは、日本の高級ホテルは長らく「静謐で上品な空間」の提供に特化してきた。フォーマルで格式重視の空間づくり、伝統的な「おもてなし」に重点を置いたサービスが基本であり、バーが併設されていても比較的保守的なスタイルが主流だった。音楽や娯楽要素を前面に出すことは、どちらかといえば評価されない傾向にあったと思う。


これは、重厚長大な産業が勃興する中、海外文化である洋式ホテルの概念を取り入れ、そこに日本的な切り口による権威ある様式が必要とされた時代背景との関係性を考慮すれば、至極当然のことだ。


そして、時代は変遷し、世界の移動手段や宿泊予約システムにも革新的イノベーションが起こり、あらゆる経済・文化現象が細分化し、複数のジャンルとカテゴリーが林立。既存の境界を越えた新たなジャンルも登場する時代となった。


ゲストはカジュアルなファッションでもホテルを利用できる時代になった。都市生活が多様化し、よりパーソナルで軽快なライフスタイルが主流を占めてゆく中、ライフスタイルに軸足を置く高級ホテルも登場し、多様な富裕層ゲストを迎える中で、より好感度と感性の高いゲストの共感を得るために、従来とは異なるアプローチ、戦略が求められるようになった。


⚫︎ハイ・ロー・ミックス戦略。ファッション業界との比較


新旧の融合を図る現代の高級ライフスタイル型ホテルは、ストリートカルチャー(ローカル)の良さやトレンドカルチャーを凝縮して翻訳する力を独自にリノベーションし、「SONATA BAR & LOUNGE」のような空間コンテンツとして構築することで、ブランドを刷新し差別化を図っている。


より新世代の好感度と感性の高いゲストの共感を得るこのアプローチは、ファッションカルチャーの文脈では「ハイ・ロー・ミックス」や「カルチャーハイジャック」、「ハイエンド×ストリート」と呼ばれる現象と本質的に同じだと思う。


ルイヴィトンが2023年にPharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)をメンズ クリエイティブ・ディレクターに起用したことは、まさにこの戦略の象徴だ。かつて音楽・ストリートカルチャーの最前線で、ヒップホップからR&B、ポップ、ファンク、ソウル、さらにはN.E.R.D.での実験的なロック要素まで、ジャンルの境界を超越して活躍したファレルという世界トップクラスの「文化の翻訳者」を通じて、ルイヴィトンはクロスオーバー戦略を展開し、異なる文化圏との融合を図っている。


これは従来の「オールドラグジュアリー」から「ニューラグジュアリー」への転換または併合であり、単なる商品戦略ではなく文化的権威の再構築そのものである。


この変化は、従来のエリート志向を保ちながら新しい文化的影響力を取り込むことで、ブランドの関連性を維持する戦略である。ただし、これは「オーセンティシティ(真正性)」の議論も呼び起こし、元のストリートカルチャーからは「商業化による魂の喪失」として批判されることもある。パティーナ大阪のような空間コンテンツも、この真正性と商業性のバランスを巧妙に保ちながら、日本独自の文化融合力を発揮しなければならない。


話を戻そう。


このファッション業界とホテル業界の戦略的思想は本質的に同じであり、生き残りのための市場拡大戦略とも言えると思う。


現代の体験価値を追求した高級ライフスタイル型ホテルでは、音と音響設計を軸とした空間コンテンツが差別化要因の一つとなっている事例が、世界各地で見られる。ここでは、、そういった事例を幾つか見てみよう。



◆6. 世界の高級orライフスタイルホテルにおける音楽文化の取り組み事例


パティーナ大阪「SONATA BAR & LOUNGE」のような、都市型高級ホテル・カテゴリーにおいて「DJ・音楽文化そのものを軸としたナイトラウンジ・バーの常設空間コンテンツ」を配備・運営している事例は極めて先進的かつ独創的であるため、世界を見ても似た事例はない(※知らない)。


従って、ここでは、DJや音楽文化的な要素を取り入れている事例を、高級ホテルだけではなくライフスタイル・ブティックホテルにまで範囲を広げ、さらに室内プール、屋上デッキ、本格的な音響システム、客室設備、ナイトクラブ・ディスコテック業態等にまで活用領域も広げて、幾つか探ってみることにしよう。


⚫︎ニューヨーク:ナイトクラブ・ディスコテック業態での音楽文化 

The Standard High Line - Le Bain(ニューヨーク・2008年開業、継続進化中) 18階建てのホテル最上階に位置するLe Bainは、ニューヨークでも最もユニークなクラブの一つとして、都市と音楽文化を融合させた空間を提供。室内プール、屋上デッキ、本格的な音響システムを備え、Questlove、Gilles Peterson、Francois K、Spinna、Ron Trentなどの著名DJを招聘したGiant Stepイベントシリーズを約10年間継続開催。ホテルの一部でありながら、NYの本格的な音楽ベニューとしてクラブカルチャーを尊重・支援している。ただし、これはナイトクラブ・ディスコテック業態。


The Standard High Line - Le Bain

The Standard High Line - Le Bain


⚫︎バンコク:新展開での音楽・ナイトライフ重視戦略

 The Standard, Bangkok Mahanakhon(バンコク・2022年7月開業) King Power Mahanakhon tower内に位置し、Jaime Hayonによるデザインでアジアのフラッグシップとして開業。The Standardブランドの音楽・ナイトライフ文化を重視した空間戦略をアジアに展開。


⚫︎イビザ:パーティー文化の聖地での新展開 The Standard, Ibiza(イビザ・2022年4月開業) Dalt Vila地区に位置し、イビザの象徴的なパーティー・音楽文化と融合した空間を提供。The Standardブランドの音楽重視のDNAを地中海リゾートで展開。


⚫︎フアヒン:タイでの音楽文化展開 The Standard, Hua Hin(フアヒン・2021年12月開業) タイの高級リゾート地において、The Standardブランドの音楽・エンターテインメント重視の空間コンセプトをアジアリゾート市場に導入。



The Standard High Line - Others

The Standard High Line - Others


⚫︎トロント:常設DJプログラムの新機軸 

Ace Hotel Toronto(トロント・2022年7月開業) カナダ初のエースホテルとして、極めて音楽重視の空間戦略を展開。屋上ラウンジ「Evangeline」では毎週末DJがデッキに立ち、ロビーでは毎週金曜夜に「Remix」という定期的なヒップホップ・音楽イベントを開催。地元レーベルArts & Craftsがキュレートした客室内ヴィニールライブラリーも配備。さらに、1年間で17人のレジデントDJによる多様な音楽プログラムを運営し、Toronto地下音楽シーンの重要な拠点となっている。ただし、これは週末・定期イベント型プログラム。 


Ace Hotel Toronto

Ace Hotel Toronto

⚫︎アテネ:リゾート型音楽文化の常設展開 

Ace Hotel & Swim Club Athens(アテネ・2024年大規模改修完了) ギリシャ初、ヨーロッパ初のエースホテルとして、アテネリビエラに位置。プールサイドでの定期的なDJセッション、月1回の「Odyssey」音楽イベント、週末のStegi Radioキュレーション音楽プログラムなど、音楽文化を軸とした常設コンテンツを展開。Greek Visionsがキュレートした客室内ヴィニールコレクションも配備し、ギリシャの音楽文化とモダンなDJ文化を融合。ただし、これもリゾート型での週末・定期イベント型プログラム。


Ace Hotel & Swim Club Athens

Ace Hotel & Swim Club Athens


⚫︎シカゴ:地下ライブスペースでの音楽体験 The Hoxton, Chicago - Lazy Bird(シカゴ・継続進化中) 地下レベルのカクテル・ミュージックラウンジで、木曜から土曜の夜にライブミュージックを提供。音楽を重視しているが、ライブパフォーマンス中心で常設DJプログラムではない。


The Hoxton, Chicago - Lazy Bird

The Hoxton, Chicago - Lazy Bird

⚫︎日本国内参考事例:音楽重視の空間戦略

ノーガホテル 秋葉原 東京(2020年開業) 高級スマートラグジュアリーのカテゴリーではないが、参考までに紹介したい。全室に高音質スピーカーを設置し、音楽の臨場感を最適な状況で体験できるよう設計。ただし、客室設備としての音楽体験に留まる。


ノーガホテル 秋葉原 東京

ノーガホテル 秋葉原 東京

◆7. 上記取り組み事例から見える分析。真正性への気づきと日本の文化融合力


これらの事例を簡単に分析してみよう。ホテル業界での音楽文化の取り組みには明確なカテゴリー別に特徴がある。


The Standard Hotelsといったライフスタイル系のブティックホテルでは、音楽文化を積極的に空間戦略に組み込んでいる。Ace Hotelsは、デザイン重視、若者・クリエイティブ層をターゲットとしたトレンド感のあるブランドだ。これらのブランドは価格帯も真の高級ホテルより下位に位置し、音楽・アート・カルチャーを前面に押し出すことでブランド差別化を図っている。


一方、Four Seasons、Ritz-Carlton、Park Hyatt、St. Regis、Conrad、Waldorf Astoria など、伝統的な高級ホテルブランドにおいては、「DJ・音楽文化を軸とした常設空間コンテンツ」の導入はもちろん難しい。これらの最高級ブランドは、より伝統的で格式のある上質で洗練されたホスピタリティに重点を置いている。


プログラム形態での、音楽要素を取り入れている事例では、その多くは「ナイトクラブ・ディスコテック業態」「週末・定期イベント型」「客室設備型」なアプローチに留まっている。

そのような観点において、カペラホテルズという最高級ホテルブランドでの、都市型高級ホテルカテゴリー・パティーナ大阪に、「SONATA BAR & LOUNGE」を常設させるというアプローチは独創的と言えるだろう。


真の高級ホテルカテゴリーにおいて「文化の翻訳者たるDJと音楽文化を軸としたナイトラウンジ・バー空間」が常設配備され、ヴィンテージオーディオ×アナログレコードによる本格的な音楽体験を提供している例は、世界的に見ても類例がなく、このアプローチの先進性が浮き彫りになる。


これは、コモディティ化を離脱する戦略の一つだ。ルイヴィトンが世界トップクラスの「文化の翻訳者」を通じてクロスオーバー戦略の展開、異なる文化圏との融合を図るビジョンと思想は同じで、新たなポジショニングにおいてマーケットを開拓していると言えると思う。


Summer Madness · Kool & The Gang




◆8. まとめ:コモディティ化を回避する「節操のない(優れた)創造力」—真正性への気づきと日本の文化融合力


⚫︎音楽・アート・文化への深い統合アプローチ 

上記の世界事例は、音楽、アート、文化への深い統合アプローチを一貫して示している。

これらの事例から見えてくるのは、単なるBGMとしてではなく、音響設計や優れたローカルDJによるアーカイブから最新トレンドまでの選曲でリアルタイムに表現すること、配置するアートや空間デザインとその土地の自然・文化・歴史、そして食や酒との一体感を演出することで、宿泊客に深い体験価値を提供していくという共通した思想である。


⚫︎都市型高級ホテルにおける音楽統合の戦略的重要性 

前述の事例が示すように、現代の都市型高級ホテルやライフスタイルホテルの一部において、音楽を軸とした、音楽文化を積極的に取り入れる空間体験の統合が注目されている。既に飽和状態とも言える高級市場において、明確な音響的アイデンティティは、単なる宿泊施設以上のものを求める目の肥えた顧客層にとって、強力な独自の販売提案(USP)となる。


音楽は、雰囲気作りの強力なツールであり、公共空間におけるムードに影響を与え、コミュニティ意識とエネルギーを育む。これにより、静的なロビーやバーが活気に満ちたダイナミックな「ソーシャル・ハブ」へと変貌する。


一貫した高品質な音楽プログラム、特にDJ主導のイベントは、夜間のエンターテイメントを求めてゲストや地元の顧客を積極的に引き寄せる。これは、飲食の収益機会を拡大し、ホテルを都市内の文化的・エンターテイメント拠点として確立する。


地元のDJタレントや多様な音楽ジャンルをキュレーションすることで、ホテルは、ゲストと都市の芸術的脈動やクリエイティブなシーンを深く結びつける、本物の文化体験を提供できるのだ。


⚫︎新世代旅行者のニーズ変化への対応 

感度の高い旅行者、ビジネスプロフェッショナル、富裕層といったターゲット層は、文化的な意識が高く、洗練されたライフスタイルを反映する体験を求めている。


現代の社会的意識の高い新世代旅行者においては、従来の「手厚い重厚なおもてなし」から「ライトかつパーソナルで哲学的旨みのある参加型体験」へとニーズが変化している。受動的なサービスを儀礼的に受けるだけでなく、自分もその空間の一部となって文化創造に参加したいという欲求が高まっている。


常設的でキュレーションされた音楽プログラムは、彼らのダイナミックな社交環境、ユニークな文化的没入、そして本物の地域との関わりへの欲求に直接応えるものである。


⚫︎戦略的要件としての音楽・DJ文化統合

 音楽とDJ文化を中核的な空間コンテンツによって、伝統的で格式のあるサービスを提供するノウハウのある高級ホテルが、ストリートカルチャーに根ざす多様な音楽カルチャーを吸収するといった、戦略的要件として取り組むことで、新たなポジションとマーケットを開拓できる可能性がある。


⚫︎日本独自の文化融合力への期待 

このブログでは、日本人DJ×洋楽アーカイブという文化現象に象徴される日本特有の文化融合力から始まって、パティーナ大阪「SONATA BAR & LOUNGE」での体験の話題に至るまでを論じてきたが、これらはまさに「節操のない(優れた)創造力」の具現化というストーリーだった。


「新×旧・高級×ローカル、歴史×トレンド」「ハイ・ロー・ミックス」戦略は、「節操のない(優れた)創造力」であり、真正性と商業性のバランスを保ちながら文化的権威を再構築する現代的アプローチと言えるだろう。


これらはコモディティ化を回避し、真正性のある体験価値を追求する現代ホスピタリティ業界の戦略のヒントを示していると思う。パティーナ大阪のような音と音響設計を軸とした空間コンテンツが差別化要因の一つとなる中、日本人の文化融合力「エディット力・アレンジ力」を発揮した都市型高級ホテルや空間コンテンツの事例が、日本資本においても今後、登場してくるのだろうか。


江戸時代を見ればよくわかるが、元々、チャレンジングで寛容性豊かな日本人だから、今後おそらくそうなってくるんだと思う。


そういう意味では大阪という土地で、パティーナ・ブランドが誕生したのは偶然ではない。大阪にはそういう「緩さ」を備えたコンテンツやプラン、サービスが、なぜか生まれやすい風土がある。無論、万博開催はきっかけとして大きいが、NTT都市開発が大阪にパティーナを誘致したのも、必然だったと思う。


そして、日本独自の文化融合力は、真の意味での「真正性への気づき」を世界に示す次なるステージに来ているのかもしれない。



That's The Way I Feel About 'Cha · Bobby Womack



阿部

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