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ホスピタリティ・ライフスタイル・エンターテインメント産業の境界と融合:数値を超えた投資価値の発見

  • 執筆者の写真: Hiroshi Abe
    Hiroshi Abe
  • 3月31日
  • 読了時間: 15分

更新日:9月28日


▶︎はじめに:クリエイティブという言葉の違和感

「クリエイティブ」という言葉が日本で使われるときに醸し出す何ともいえない違和感というか恥ずかしさと言えば良いのか、不思議な感覚を覚えているのは私だけでしょうか?そうは言うものの、他に適当な言葉が見当たらないので私も文章においては使っているのですが。この言葉はまるで洗練されたとか、ミニマルな美学とか、もっと短絡的にはファッション視点でトレンドやオシャレいった空気感と結びついて語られることが多いから、そう感じているのかもしれません。


加えて、トレンドセッターを標榜する方々やマーケティング論者たちの口から出る「クリエイティブ」は、どこか表面的で無菌状態のようにも思えてしまいます。しかし、クリエイティビティとはもっと生々しいものであるように考えています。混沌とした現実から新たな価値を紡ぎ出す、時に泥臭く、時間をかけて熟成されて然るべき創造のプロセスではないかと。まあ、そこまで固く考える必要もありませんが。。


日本では「クリエイティブ」という言葉が、本来持つ多様な意味合いを狭めているようにも感じています。英語の "creative" が持つ、発想力、独創性、革新性といった幅広い意味合いが、日本では特定の分野やスタイルに偏って解釈されているのかもしれません。もちろん、それは日本独自に昇華された概念として捉えれば良いことでもあります。


クリエイティブ産業への投資:挑戦と可能性

2年前の日経新聞の記事になりますが、「クールジャパン機構、改革困難なら「廃止検討」 経産相2023年2月6日)」というニュースがありました。クールジャパン機構の2021年度末時点での累積赤字は309億円にのぼっていたようです。この累積赤字に関して、時の経産相が「改革困難なら廃止検討」と述べていました。



このクールジャパンという言葉自体はなんだか不思議ですが、官民が連携してプラットフォームを形成し、日本のコンテンツやサービスのブランド力を高めてソフトパワーを強化し、拡大する世界のコンテンツ市場における需要を獲得するという理念と投資行動には全面的に賛同しています。日本の文化的価値を海外展開支援するために設立されたこの機構が直面する課題は、文化産業(もしくはクリエイティブ産業と言っても良いのかもしれません)への投資の難しさ、つまり、クリエイティビティの在り方と投資リターンの複雑な関係を浮き彫りにしています。数値化しにくい文化的価値と、明確な投資リターンをどう結びつけるか—この難題は、本ブログで探求する「数値を超えた投資価値」というテーマの核心に通じるものです。



※「Then and Now: The Shifting Artist-Label Dynamic Transforming the Music Industry.今日のメジャー・レーベルは有望なアーティストと配給契約を結ぶ一方で、もう510年かけてアーティストを育てることはしません。その過程で、彼らは多くのクリエイティブ・コントロールを放棄しています。原典:ローリングストーン誌:2025年3月7日)

(記事本文の要約)現代のメジャーレーベルはアーティスト育成を放棄し、クリエイティブコントロールを手放している。ストリーミングによる収入減少で、主な収益源はツアーとシンクに移行し、レーベルはマスター権共有を余儀なくされている。アーティストはより独立性を得る一方、契約には先に実績証明が必要だ。音楽の目利きだった「キングメーカー」時代は終わり、新たな公平なパートナーシップモデルが模索されている。この変化は必要に迫られたものだが、より本物のアートを生み出す可能性もある。


記事全文の和訳)過去と現在:音楽業界を変革するアーティストとレーベルの関係性の変化

この変化はアーティストにより多くの独立性を与えていますが、大きな注意点は、彼らがまず公衆に自分自身を証明しなければならないということです。著:スティーブン・ファボス


プリンスが時代の先を行っていたことは誰もが知っていますが、それは音楽だけでなくビジネスの洞察力においても同様でした。18歳で初めてのレコード契約を結んだ時、当時の神童は音楽に対する[クリエイティブ・コントロールを維持すること](https://www.independent.co.uk/news/people/prince-and-his-conflicted-relationship-with-the-internet-a6996111.html)を主張し、ワーナー・ブラザースもそれに同意しました。当時はとても珍しいことでしたが、今ではこのような自律性がより一般的になってきています—それは選択ではなく必要性によるものです。今日のメジャーレーベルは有望なアーティストと配給契約を結ぶ一方で、もう5〜10年かけてアーティストを育てることはしません。その過程で、彼らは多くのクリエイティブ・コントロールを放棄しています。


従来、アーティストはレーベルと契約するか、バーでセットを演奏しながらレーベルとの契約を目指していました。そしてストリーミングが音楽の収益を激減させました。今日、本当のお金は主にツアーと「シンク」([映画、テレビ、ビデオゲーム、CMに音楽を組み合わせること](https://www.bridge.audio/blog/synchronization-how-sync-is-reshaping-the-music-industry/#:~:text=Definition%20of%20Music%20Synchronization,risen%20in%20prominence%20and%20profitability.))から生まれています。CD販売が急落し、デジタル配信の収益が低い中、大手レーベルはアプローチを変更し、少なくともアーティストのマスターレコーディングの権利を共有せざるを得なくなりました。


この変化はアーティストにより多くの独立性を与えていますが、大きな注意点は、彼らがまず公衆に自分自身を証明しなければならないということです。誰もSpotifyのリスナーがたった500人のアーティストと契約はしないでしょう。古い構造が崩壊するにつれて、パートナーシップモデルがレーベルの創造性の所有権とアーティスト自身の発展を推進する間のギャップを埋めつつあります。その間、私たちは皆、コストと機会の両方を数え続けることになります。


クリエイティブ・リーダーシップの終焉

最近のブロードウェイの演劇『ステレオフォニック』は、クリエイティブな幹部が音楽ビジネスを担っていた時代の[タイムカプセル](https://stereophonicplay.com/)を提供しています—そして、私たちがそれ以来失ったものを示しています。フリートウッド・マックの初期のアルバムに基づいたこの作品は、舞台を録音スタジオに変え、観客がコントロールブースの後ろに座る設定です。この演劇は、レーベルが良い曲を作るのに必要な時間だけバンドにスタジオに滞在する費用を払っていた時代への回帰です。


デイビッド・ゲフェンや[コロンビア・レコードの元社長](https://rockhall.com/inductees/clive-davis/)のクライブ・デイビスのような伝説的な人物は、当時、音楽と才能に対する優れた耳を持っていました。彼らはキングメーカーでした。ゲフェンがイーグルスを初めて聞いたとき、彼らには開発が必要だと理解しました—より良い曲、より良いボーカルハーモニー—しかし同時に彼らの可能性も知っていて、[1971年に自身のアサイラム・レコードと契約](https://www.loudersound.com/features/life-in-the-fast-lane-the-turbulent-tale-of-the-eagles)しました。今ではそのような影響力は消えてしまったようです。残っているのは金融の専門家がレーベルを運営しているだけです。


とはいえ、音楽の成功には正確な公式が存在したことはありません。レディー・ガガはブレイクする前に何年もの間曲を書き、自分自身を築き上げなければなりませんでした。キャロル・キングも同じことをしました。今の違いは、アーティストが自分の声を見つけるのを助けるリソースがかつてないほど乏しくなっていることです。最近、ロック・ネイションが発表したように、彼らはもはやレーベルではなく、[単なる配給会社](https://www.musicbusinessworldwide.com/roc-nation-merges-label-and-equity-distribution-units-to-form-roc-nation-distribution/)なのです。


より公平なモデル

録音技術へのアクセスが民主化されたおかげで、アーティストは今日、少なくとも初期段階では、より簡単に音楽を作ることができます。しかし最終的には、スタジオ時間を購入し、曲を発展させるためのプロデューサーを見つける必要があります。彼らが必要なものを正確に把握する負担は彼ら自身にあります。スタジオオーナーかつ独立レーベルとして、私たちはコストを抑え、より大きなクリエイティブ・コントロールを与えることで、アーティストに歩み寄るよう努めています。


また、契約の構成方法についても工夫を凝らす必要があります。例えば、新世代のレーベルはマスターレコーディングの所有権が少なくなる可能性があります。将来的には、共同所有権、投資が回収されるまでの所有権、またはマスターが所有者に返還される前の10年または15年間の共同所有権などの形になるでしょう。


私たちは最近、より深いコミットメントをする前に、スタジオとアーティストの両方が可能性を見極めることができる低リスクのアプローチを試すことにしました。そのために、アーティストが1曲をリリースして市場でテストすることを許可しています。私たちはその曲にお金をかけ、ソーシャルメディアでプロモーションし、Spotifyに掲載します。素晴らしい曲であれば、成功するでしょう。曲に改善が必要であれば、アーティストは何をすべきかを知ることになります。この新しい世界では、精神はコントロールではなく協力です。


コラボレーションの芸術

しかし、変わらないこともあります。音楽の成功には依然として、勤勉さ、体力、自己信頼、そして拒絶に対処する能力が必要です。ビートルズを考えてみてください—彼らは[1日8時間演奏し](https://www.foundingfuel.com/article/the-beatles-and-mastery-through-deliberate-practice/#:~:text=Malcolm%20Gladwell%20in%20his%20book,out%20of%20one%27s%20comfort%20zone.)、お互いをよく知り、観客が何を望んでいるかを正確に理解するようになりました。作曲家が1つの宝石のために100曲を書く必要があるとしても、その1つの宝石がキャリアを作ることができます。アーティストはまた、何が機能し何が機能しないかについての直接的なフィードバックを得るためにライブパフォーマンスをする必要があります。


ジョンとポールもコラボレーションという意味では時代の先を行っていました。彼らはお互いに_対抗して_書いたり、お互いに_一緒に_書いたりして、互いの本能—マッカートニーのメロディックなロマンティシズムとレノンのロック感覚—のバランスを取り、聴衆と共鳴するサウンドを作り出しました。今、これはより大きなグループで行われています。


今日のアーティストは多くの異なる人々と一緒に曲を書き、時には4人の作家が互いに刺激し合うキャンプで書くこともあります。これは最終的な曲に各人がどれだけ貢献したかのパーセンテージを計算するときに少し混乱を生じさせます。役割とコミットメントはちょうど固定されていません。私たちは、別のプロデューサーを迎えるまで創造的に行き詰まっていたあるグループを知っています—そして突然、彼らの可能性が広がりました。この新しい柔軟性のすべてにより、個人的には、業界がより高揚感を与え、啓発的な音楽を生み出す異なる時代精神に向かっていると思いたいです。


新しい時代精神

スタジオが望むものを得るまで条件を指示していた古い力関係は、新しい経済的現実に道を譲りました。アーティストは100万回のストリーミングにつき[3,000〜4,000ドル](https://virpp.com/hello/music-streaming-payouts-comparison-a-guide-for-musicians/#:~:text=How%20to%20calculate%20your%20potential,%2C%20distribution%20fees%2C%20and%20taxes.)しか稼げず(Apple Musicは上限の8,000ドル)、彼らは今や自分自身の開発に投資し、レーベルと対等に交渉する前に聴衆を連れてくる必要があります。必要性から生まれたこの新しいモデルは、結果的にはより本物のアートを生み出すかもしれません。最終的には、いつものように、アーティストとレーベルが適切なバランスを見つけたかどうかを決定するのは聴衆です。


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とてつもなく広範な文化産業コンテンツがある中、本ブログでは「ホスピタリティ、ライフスタイル、エンターテインメントという三つの視点から産業を捉え直してみたいと思いますが、この場合において、財務指標を超えた文化的価値とは何なのかでしょうか。そして、それらはどこに存在するのでしょうか。そして、それらをどのように見極め、投資判断に活かせるのでしょうか。本ブログでは、これら三つの産業の特性と関係性を掘り下げながら、機械的な投資手法だけに頼らない場合の、価値を見出すための視点を独自に考察したいと思います。



▶︎三つの産業:定義と特徴

まずは、議論の土台として、三つの産業の定義と特徴を整理しましょう。


ホスピタリティ産業

顧客に直接的なサービス体験を提供する産業です。ホテル、旅館、レストランなどが該当し、「おもてなし」の精神に基づく顧客満足の創出が本質です。特徴としては、サービスの同時性(提供と消費が同時)、無形性、人的要素の重要性などが挙げられます。


ライフスタイル産業

人々の生活様式や価値観に関わる製品・サービスを提供する産業です。ファッション、インテリア、フィットネス、食品、美容などが含まれ、個人のアイデンティティや生活の質の向上に関わります。消費者の嗜好や自己表現と深く結びついているため、ブランド価値や文化的文脈が重要です。


エンターテインメント産業

楽しさや感動、非日常的体験を提供することを目的とします。映画、音楽、ゲーム、テーマパーク、スポーツイベントなどが該当し、感情的な反応や記憶に残る体験を生み出すことが中心です。コンテンツの創造性と訴求力が成功の鍵を握ります。



▶︎三産業の比較と関係性

これら三つの産業は、それぞれ異なる特性を持ちながらも、重なり合う領域が存在します。


【三産業の主な特徴】

  • ホスピタリティ産業

    • サービス品質重視

    • その場での体験提供

    • 人的要素が中心

  • ライフスタイル産業

    • 個人の価値観・嗜好に訴求

    • 日常生活の質向上

    • ブランド価値を重視

  • エンターテインメント産業

    • 感情喚起・共感を促す

    • コンテンツ創造が中核

    • 非日常的体験を提供


【三産業が関係する重複領域】

  • 顧客体験の創出(全産業共通)

  • 文化的価値の表現と提供

  • ブランド構築とストーリーテリング


三つの産業の差異と共通点を理解するために、核となる要素を整理し比較してみましょう。

要素

ホスピタリティ産業

ライフスタイル産業

エンターテインメント産業

主な価値提供

おもてなし・快適さ

自己表現・生活の質

感動・楽しさ

消費形態

その場での体験

継続的な日常使用

一時的な体験・消費

差別化要因

サービス品質・人材

デザイン・ブランド

創造性・コンテンツ

顧客関係

直接的・短期的

日常的・長期的

間接的・感情的

収益モデル

サービス料金

製品販売・定期購入

チケット・ライセンス

時間軸

短期的な関係構築が多い

中長期的な関係構築が中心

一時的な体験提供が主

上記の表から、それぞれの産業における顧客との関係性の時間軸を比較してみると、興味深い特徴が浮かび上がります。この時間的差異は、一見当たり前のようでいて、実際に整理してみると産業特性を理解する上で非常に重要な視点だと思います。


ライフスタイル産業は中長期的な関係構築が中心となります。ファッションブランドやインテリアショップなどは、顧客の生活に寄り添い、長期にわたって価値観を共有していくビジネスモデルです。顧客は特定のブランドやショップと継続的な関係を築き、そのアイデンティティの一部として取り入れていきます。


対照的に、ホスピタリティ産業は比較的短期的な関係構築が中心です。ホテルや旅館、レストランでの体験は数時間から数日という限られた時間内で完結することが多く、その短い時間内で深い満足や感動を提供することが求められます。


さらに、エンターテインメント産業はより一時的な体験提供が主となります。映画館での2時間、コンサートでの数時間といった極めて限定的な時間の中で、強烈な感情体験を生み出すことに特化しています。


このような時間軸の違いは、戦略立案やマーケティング手法、そして投資判断においても重要な意味を持ちます。長期的な関係を築くライフスタイル産業では顧客生涯価値(LTV)が重視される一方、短期的・一時的な関係が中心のホスピタリティやエンターテインメント産業では、その瞬間の体験価値の質がより重要になるのです。


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▶︎産業間の融合とその事例

今日のビジネス環境では、これら三つの産業の境界は急速に曖昧になっています。以下に、産業間の融合がもたらす新たな価値創造の事例を見てみましょう。


ホスピタリティ×エンターテインメント

ディズニーランドホテルや、USJのオフィシャルホテルは、宿泊施設としての機能を超え、テーマパークの世界観を延長した没入型体験を提供しています。これは単なる宿泊サービスではなく、エンターテインメントとしての価値も持ち合わせています。


ライフスタイル×ホスピタリティ

無印良品が手がける「MUJI HOTEL」は、ミニマリズムと機能性を重視するブランドの価値観を、ホテルという形で体現しています。生活用品ブランドがホスピタリティ領域に進出することで、顧客との接点を拡大し、ブランド体験を深化させています。


エンターテインメント×ライフスタイル

ポケモンGOに代表されるARゲームは、エンターテインメントを日常生活空間に拡張し、新たな生活様式を創出しました。また、Netflix等の配信サービスは、視聴習慣を変えるだけでなく、コンテンツに影響された生活用品の購入など、ライフスタイルへの影響力を持っています。


三産業融合の例

星野リゾートは、日本の伝統的なおもてなし(ホスピタリティ)と、現代的な暮らし方の提案(ライフスタイル)、そして季節や地域に根ざした体験プログラム(エンターテインメント)を融合させ、独自の価値を創出しています。



▶︎投資視点での各産業の特徴と見方

投資家にとって、これら三つの産業はそれぞれ異なる特性とリスク・リターンプロファイルを持っています。機械的な財務指標の分析だけでは、真の価値を見誤る可能性があります。


ホスピタリティ産業の投資特性

  • 景気変動の影響を受けやすい

  • 高い固定費(不動産・人件費)

  • 地域経済や観光需要との連動性

  • ブランド価値と顧客ロイヤルティが重要


ライフスタイル産業の投資特性

  • トレンドの変化に左右される

  • ブランドエクイティの重要性

  • デジタル化・DtoCモデルの成長

  • サステナビリティ価値の高まり


エンターテインメント産業の投資特性

  • ヒット作への依存度(ワンヒットリスク)

  • IP(知的財産)の長期的価値

  • デジタル配信による収益モデルの変化

  • グローバル市場での可能性



▶︎投資価値判断のための数値モデルと実践的アプローチ

三つの産業への投資判断において、定性的な価値を数値化し、従来の財務指標と組み合わせて評価するアプローチを考えてみましょう。


文化的・創造的価値の定量化モデル

クリエイティブ産業への投資において、財務諸表に表れない価値を数値化する試みとして、以下のような複合指標が考えられます。




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お時間ある方は是非どうぞ。







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